慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
授業概要（シラバス）
2006年度春学期
2006年度春学期 月曜日２時限
科目コード: 25170 ／ 2単位
カテゴリ: 15.汎用-総合政策系科目(学部)
開講場所：SFC
授業形態：演習/実習
1. 主題と目標/授業の手法など
この演習は、日本国憲法の解釈論を通じて、legal way of thinking（法的なものの考え方）を涵養することを目的とするものである。
憲法の規定する人権と統治機構の枠組みを理解することは、わが国における公共政策を考えようとする学生にとっては、きわめて有益なことである。この演習では、受講者の綿密な自習と教室での徹底した討議によって、標準的な憲法解釈の基礎知識を習得することを目指す。
憲法は、国や地方公共団体等の公務員試験の受験科目であるので、公務員を志望する学生は、憲法を学習する際のペースメーカーとしてこの演習を活用することができるであろう。また、将来的に法曹（裁判官、検察官及び弁護士）になりたいと考えている学生にとっても、ソクラテス・メソッドによって憲法解釈の徹底理解を図ることは、法科大学院での専門教育の基礎を固める意義があるだろう。もちろん、研究機関や民間企業等に就職する学生にとっても、前述の通り、憲法の基礎知識を習得することは重要なことである。いずれにせよ、意欲的な学生の主体的かつ能動的な参加を期待している。
この演習は、講義というスタイルを採用せず、受講者の事前の予習と教室での討議が中心となる。授業担当者が憲法解釈学上重要な概念をいくつか指定するので、受講者は全員、毎回、準拠教材等を用いてその概念の定義や説明をまとめたうえで、メモとして持参する。そして、各自が作成したメモをもとに、授業担当者の司会の下で、憲法解釈学上の諸問題について全員で討議を行う。また、重要な判例については、事件の概要と判旨をまとめた資料を配布するので、それを読み、理解したうえで、討議に参加することが求められる。最後に、基礎レベルの問題を演習し、受講者の学習効果を測定する（ただし、この毎回行う問題演習は、成績評価の対象とはしない）。
2. 教材・参考文献
受講者が憲法の基本概念をまとめるための課題メモのテンプレートと、受講者があらかじめ読んでおく判例の概要は、いずれも授業担当者が作成し、授業時間中に配布する。
予習のための準拠教材として、わが国で最も定評のある憲法学の概説書である芦部信喜＝著／高橋和之＝補訂『憲法（第3版）』（岩波書店、2003年）を指定する。なお、授業担当者の執筆した演習書として、川��政司＝編／柳瀬昇＝著『要点演習3 憲法』（公職研、2004年）があるので、参考書として参照されたい。その他、憲法を学ぶにあたって有用な概説書や参考書等については、第1回の授業において説明する。六法も必ず携行されたい。
3. 授業計画
第1回 憲法の学習方法
この演習の趣旨・内容、授業担当者の基本的な考え方、憲法の学習方法、法的なものの考え方を習得することの重要性などについて説明する。この演習を履修登録しようと考えている者は、必ず第1回の授業に出席されたい。第2回 近代立憲主義の基本原理――憲法総論・人権総論（1）
日本国憲法の意義、三大原理（国民主権主義、人権尊重主義、平和主義）、補助的原理（権力分立、法の支配と法治主義）及び人権の意義・分類について討議する。判例としては、砂川事件（最大判昭和34年12月16日刑集13巻13号3225頁）を取り扱う。第3回 憲法と人権の限界――人権総論（2）
公共の福祉の原理、人権享受の主体適格性（外国人、法人、一般職公務員、未成年者、在監者に対する人権保障の可否）及び憲法の私人間適用（第三者効力）について討議する。判例としては、マクリーン事件（最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁）、定住外国人地方参政権事件（最判平成7年2月28日民集49巻2号639頁）、八幡製鉄事件（最大判昭和45年6月24日民集24巻6号625頁）、猿払事件（最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁）、全農林警職法事件（最大判昭和48年4月25日刑集27巻4号547頁）、三菱樹脂事件（最大判昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁）及び日産自動車事件（最判昭和56年3月24日民集35巻2号300頁）を取り扱う。第4回 幸福と平等の理想と現実――包括的基本権・法の下の平等
幸福追求権と新しい人権及び法の下の平等について討議する。判例としては、京都府学連事件（最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁）、前科照会事件（最判昭和56年4月14日民集35巻3号620頁）、「宴のあと」事件（東京地判昭和39年9月28日下民集15巻9号2317頁）、女子再婚禁止期間事件（最判平成7年12月5日判時1563号81頁）、非嫡出子相続分規定事件（最大決平成7年7月5日民集49巻7号1789頁）、尊属殺人事件（最大判昭和48年4月4日刑集27巻3号265頁）及び議員定数不均衡訴訟（最大判昭和51年4月14日民集30巻3号223頁）を取り扱う。第5回 内心の自由――精神的自由権（1）
憲法が保障する精神的自由権のうち、思想・良心の自由、信教の自由とその制度的保障としての政教分離原則及び学問の自由とその制度的保障としての大学の自治について討議する。判例としては、謝罪広告事件（最大判昭和31年7月4日民集10巻7号785頁）、麹町中学校内申書訴訟（最判昭和63年7月15日判時1287号65頁）、加持祈祷事件（最大判昭和38年5月15日刑集17巻4号302頁）、剣道実技拒否事件（最判平成8年3月8日民集50巻3号469頁）、オウム真理教解散命令事件（最決平成8年1月30日民集50巻1号199頁）、津地鎮祭事件（最大判昭和52年7月13日民集31巻4号533頁）、東大ポポロ事件（最大判昭和38年5月22日刑集17巻4号370頁）を取り扱う。第6回 表現の自由――精神的自由権（2）
憲法21条を論ずる。具体的には、表現の自由の価値・射程・内容、事前抑制・検閲の禁止及び集会・結社の自由について討議する。二重の基準論についても触れる。判例としては、サンケイ新聞事件（最判昭和62年4月24日民集41巻3号490頁）、博多駅テレビフィルム提出命令事件（最大決昭和44年11月26日刑集23巻11号1490頁）、「チャタレイ夫人の恋人」事件（最大判昭和32年3月13頁刑集11巻3号997頁）、夕刊和歌山時事事件（最大判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁）、北方ジャーナル事件（最大判昭和61年6月11日民集40巻4号872頁）、税関検査事件（最大判昭和59年12月12日民集38巻12号1308頁）及び第一次家永教科書訴訟（最判平成5年3月16日民集47巻5号3483頁）を取り扱う。第7回 財産と身体の自由――経済的自由権・身体的自由権
職業選択の自由、居住・移転の自由及び財産権の保障について討議する。この回では、二重の基準論及び目的二分論の完全な理解を目指す。また、法定適正手続の保障や憲法上の刑事手続など、いわゆる身体的自由権（人身の自由）についても議論する。判例としては、小売市場距離制限事件（最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号586頁）、薬局距離制限事件（最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁）、公衆浴場距離制限事件（最大判昭和30年1月26日刑集9巻1号89頁）、酒類販売免許事件（最判平成4年12月15日民集46巻9号2829頁）、奈良県ため池条例事件（最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁）及び農地改革事件（最大判昭和28年12月23日民集7巻13号1523頁）を取り扱う。第8回 中間とりまとめ
第7回までの範囲について、中間試験を行う。第9回 国家による自由――国務請求権・社会権
請願権、裁判を受ける権利、国家賠償請求権、刑事補償請求権、生存権、教育を受ける権利と教育権及び労働基本権について討議する。判例としては、朝日訴訟（最大判昭和42年5月24日民集21巻5号1043頁）、堀木訴訟（最大判昭和57年7月7日民集36巻7号1235頁）及び旭川学テ事件（最大判昭和51年5月21日刑集30巻5号615頁）を取り扱う。第10回 政治部門における権力分立――国会・内閣
参政権、近代選挙法の原則、国会の地位・組織・権能、議院の権能、選挙制度、衆議院の解散、政党、権力分立、内閣の組織・権能、内閣総理大臣の権能、議院内閣制の本質、独立行政委員会などについて討議する。第11回 司法権と違憲審査権――裁判所
司法権の本質、裁判所の組織・権能、司法権の独立、違憲審査権の本質、司法権・違憲審査権の限界、部分社会論などについて討議する。判例としては、板まんだら事件（最判昭和56年4月7日民集35巻3号443頁）、警察法改正無効訴訟（最大判昭和37年3月7日民集16巻3号445頁）、警察予備隊違憲訴訟（最大判昭和27年10月8日民集6巻9号783頁）、苫米地事件（最大判昭和35年6月8日民集14巻7号1206頁）及び富山大学事件（最判昭和52年3月15日民集31巻2号234頁）を取り扱う。第12回 財政・地方からみる民主主義
財政民主主義、租税法律主義及び地方自治の本旨について討議する。判例としては、奈良県ため池条例事件（最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521頁）を取り扱う。第13回 天皇・安全保障・憲法改正
日本国憲法下の天皇の地位・権能、9条の解釈、安全保障、国際協力、憲法改正及び憲法の変遷について討議する。判例としては、砂川事件（最大判昭和34年12月16日刑集13巻13号3225頁）を取り扱う。
なお、学期末の試験期間中に、学期末試験（筆記試験）を行う。
4. 提出課題・試験・成績評価の方法など
この演習を受講する者は、毎回、事前に、準拠教材の指定箇所と配布された判例の概要を熟読し、理解し、授業担当者の指示するメモを作成しなければならない（そのメモは、毎回、提出が求められる）。
成績評価については、学期末に行う試験の得点に、出席状況、課題の提出状況、討議への参加状況等を加味して行う。まじめに授業に取り組む学生に対しては、よい評点を与えることを約束するが、受講態度が良好でない者には、相応の評点を付与する。成績評価に対する事後の異議申立ては、進級や卒業を理由とする場合も含め、一切受け付けない。その他、保険として、任意にレポートの提出を受け付けるが、その詳細は授業時間中に説明する予定である。5. 履修上の注意・その他
この演習を履修登録する者は、毎回、きちんと出席し、課題を提出し、討議に参加しなければならない。頻繁に遅刻・欠席する学生は、そもそも履修登録をしてはならない。
公務員試験等の受験や法科大学院への進学を志望する学生の受講は歓迎するが、受験のための欠席であっても、一切、特別には扱わない。あくまで、単位認定及び成績評価は、平常の受講態度と学期末試験の結果に基づいて行う。
この演習の受講にあたっての注意事項を説明するので、履修登録しようと考えている者は、必ず第1回の授業に出席されたい。6. 前提となる知識（科目名等）
「国家と法A」及び「国家と法B」を履修したか（並行して履修することも可能である）、あるいはそれと同等の知識を有することが望ましい。
7. 履修者数制限（予定人数および制限方法）
履修人数を制限しない。
8. 授業URL
http://www.sfc.keio.ac.jp/~noboru/course/
9. 学生が準備するソフト・機材
なし
10. 授業に関する連絡先
noboru@sfc.keio.ac.jp
2006-02-23 13:17:34